Fahrenheit Ⅳ
「柏木さーん、大丈夫ですかぁ?」遠くで佐々木の声が聞こえてきた。
「ヤベ」
俺たちは顔を合わせた。
「啓、行ってください。後は適当に誤魔化しておきますので」と瑠華に背中を押され、俺は新婦用の控室から出ることに。
新婦用の控室から出る真際、瑠華が裸足のまま背伸びをして俺の頬にそっとキス。
熱い―――唇だった。
「過去形―――なんかじゃないです。あたしは今も―――」
瑠華は言い出したが
「柏木さーん」と遠くで佐々木の声が聞こえてきて
「いえ、すみません。お引止めして。先ほどはすみませんでした」
「ううん、先に仕掛けたのは俺の方だし」俺は思わず苦笑い。
「しー」と言う意味でか、瑠華は俺の唇に人差し指を当て
「二人だけの秘密です」
「う、うん!」
現金な俺はすぐにそれで立ち直った。
その後トイレを探していたのであろう、女性用トイレの前で「柏木さーん」と声を掛けている佐々木に向かって
「佐々木、悪りぃな。たぶん柏木さんもう少しで戻って来るだろうから、そしたら最初から練習再開しようぜ」と言うと、佐々木は若干心配そうな顔をしたもののすぐに頷いた。
それから間もなく瑠華は会場に戻ってきた。
佐々木の言葉がキッカケになるとは思わなかった。
けれど俺たちは少なくとも前よりだいぶましに踊れることになった。問題のクイックステップも息が合うようになってきた。
互いに笑顔を見せられるほどにもなった。
「すっごい!だいぶ良くなりましたね」と佐々木も感心している。
お前のお陰だよ、とは言い出せなかったが、それでもサンキュ。
瑠華のドレスの先がふわりとターンするたびに舞う。それはまるで映画を観ているようだ。
ホールドを注意されることも少なくなった。
佐々木だけはこの短期間で何があったのか分からない状態で首を捻っていたが、これで新年会を無事に過ごせそうだ。
情熱
俺たちにまだそれが欠片でも残っていたことに、俺は神に感謝した。
その情熱を少しでも取り戻す為、絶対に新年会成功させてやる!