Fahrenheit Ⅳ
見かねてハンカチを差し出すと
「え?いいの?何か高そうなハンカチだけど」と、それでもおずおずと受け取る。
「それほどでもありませんのでお気になさらず」そっけなく言って御本堂に向かおうとすると「待ってよ~」と葵さんが慌ててあたしの後を追いかけてくる。
まったく……あたしは子供のお守りをしにきたつもりではないのに。と参拝前にすでに疲れ気味。
葵さんは年末の風邪からすっかり回復したようで元気過ぎるぐらい元気だし、まぁずっと寝込んでてもらっても困るけど。
その中間ぐらいってないのかしら。啓も元気だけどさすがに年齢が年齢だけあって落ち着いて気配りができる部分もある。
啓―――
昨日のキスはとても情熱的だった。熱い唇。体温、香り。すべてがつい先ほどのように思い出せる。
とろけるようなキスの雨の中、時間が永遠に止まってくれれば、とさえ願った。
けれど時間は流れる。誰にでも平等に。
参拝をするため、人々の列に並びながら、一歩…そしてまた一歩参拝客がお参りを終えて交代する度、それが実感させられる。
「あと少しだね~」
葵さんが背伸びをして御本堂の方を見やっている。
この人にも。
あたしだけ―――時間を止めるわけにはいかないのだ。まだまだ進まなきゃいけない。進んでやり遂げないといけないことがある。
とうとうあたしたちの番になって手を合わせてお参りをし終え、ちらりと隣の葵さんを見ると葵さんはまだ両手を合わせて熱心に何かを祈っていた。