Fahrenheit Ⅳ

けれどあまり視線で追っていてもおかしいと思われたくないのか


「柏木さん、今日余興係だったよね~、何やるの?見た感じ普通の服だけど」と二村さんはあたしの全身をさっと眺める。


今日はフェラガモの黒字にグリーンや白と言った見ようによっては花柄と取れるシルク素材のボウタイワンピースとシンプルな黒いブーツ。


「後で着替える予定ですが余興は秘密です」


「何だよ、ケチー」と二村さんは何事もないように唇を尖らせる。その笑顔の下にどす黒い思惑を隠して。


「柏木さん、あけおめ~」とすぐ背後からこれまたチャラく声を掛けられて少しばかりほっとした。


「麻野さん、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」きっちりと頭を下げ、目の奥に『今年は問題起こさないでくださいよ』と含めると


「あ、あはは~……相変わらずキッチリしてんね」と苦笑い。


披露宴会場に集まった人数は多かったけれど、会場が広かったからそれ程狭いとは感じなかった。


やがて披露宴会場の十字に走った中央に綾子さんが立ち、彼女の進行により新年会が始まった。啓のおじさまが新年の挨拶と今年の抱負などを述べ、次に緑川副社長の長い演説が続く。常務や専務の姿も見た。


啓は今から緊張しているのか胸の前で手を合わせては


「神様、仏様。どうか成功しますように」とブツブツ念仏を唱えている。啓?あなたはキリシタンじゃ?頼むのであればイエス様やマリア様の方が効果が有る気がするけれど。


因みにあたしは仏教徒だ。


社長と副社長の挨拶が終わったらいよいよビュッフェで思い思い食事がはじまり、それがはじまってすぐにアルコールを飲む暇もなく


「部長、柏木さんそろそろ支度の時間です」と佐々木さんに言われ、あたしたちまたぞろ顔を合わせそれぞれの控室に入った。


控室に入る前にちらりと見た啓の顔は緊張か少し強張って見えた。


大丈夫かしら。

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