Fahrenheit Ⅳ

『外資物流本部、神流部長と柏木補佐のダンスでした。ステキでしたね』と綾子のアナウンスが流れてくる。同時に東京都内が見渡せるスカイビューに引かれていた重いカーテンが横に開き、一気に光が舞い込んできた。


今までショー用に暗くしていたわけだが、大きな窓から広がる空は青々と輝いていた。思わず目をかばっていると


それと同時にわっと人が集まってきた。


佐々木が一番最初に俺に飛びついてきて、半泣きになりながら


「部長!ヤッタ!やりましたね!」と…


佐々木……今まで練習に散々付き合ってくれたしな。今日ばかりはこの鬱陶しいハグも受け入れてやる。


隣では


「柏木補佐、すっごくステキでした!ドレスもすごく似合ってるし」と確か……総務部の…名前何て言ったっけ。一回瑠華が具合悪いときに居合わせたあの親切な子が瑠華の両手を取っている。


「マナミさん、ありがとうございます」瑠華が小さく微笑んだ。


「ステキだったわよ~!もう感動しちゃった!」と綾子が瑠華に抱き着き、その勢いで後ろによろけそうになる瑠華。


おい、綾子!と思ったが瑠華は何とか踏ん張ったようで


「猛練習と皆様のお陰です」と瑠華が言い綾子にも微笑みかけた。


そしてこちらを振り返ると


「佐々木さん、本当に今までありがとうございました」


と佐々木に手を差し伸べる。


佐々木は「え?え?」と慌てながら、着ていたスーツパンツで手をごしごしさせると両手で瑠華の手を包んだ。その仕草はまるで芸能人に握手を求める一般人のよう。


おい、気安く瑠華に触るんじゃねぇ、と言いたいが佐々木の協力があって成功したのも事実だ。


今日だけは許してやる。


「神流部長、なかなか良かったですよ」とカクテルグラスを持った村木が近づいてきて


出たな!ズサっと後ずさりしたくなったが、こいつがそんなに嫌なヤツじゃないと気付いた最近こいつの言葉に裏がないことを知った。


「あ…りがとうございます」と素直に言うと、


「柏木補佐も。まるで別人ですね」と瑠華の姿をまじまじと見つめ


おい!そんなに見るな!


「ダンスは柏木補佐の方が上手かった気がしますがね」と。一言余分だっつーの!


「ありがとうございます」と瑠華は村木に律儀に頭を下げる。


「実は私映画の”Shall we ダンス?”が好きで」


「え?」瑠華が目を瞬いた。


「私も、好きです」


な、何か会話が弾んじゃってるよ!


「とは言っても私はハリウッド版ですが」


「ああ、ジェニファー・ロペスの?彼女の動きによく似ていた。本当に素晴らしかったですよ」


「お褒めにいただいて光栄です」と瑠華は自然に笑っていた。


くっ……村木め。瑠華が映画好きだと知らないくせに、さりげなく話題を振りやがって。


ギリギリ……


歯ぎしりをしていると


「ぷ」と背後で吹き出す声が。


「啓人、分かりやすぎ」と裕二が笑っていた。
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