Fahrenheit Ⅳ


「まぁ、俺から口出しする問題でもないし、こればかりは二人が解決しないとな」と口では言ったがこのまま二人が不仲だとこちらに分が良いのは事実だ。


そんなことを話し合っていると、瑞野さんがこちらに向かってきた。


「部長、ここにいらしたんですか。会長がお話されたいと」と言われ「親父が?」と俺は会場のほぼ中央で女子社員からシャンパンを受け取っている親父を見た。


「早く」と言って瑞野さんは大胆にも俺の手を取る。


「ちょっと、部長はまだあたしと話し途中で」と緑川が声を低めた。


「でも会長が……」と瑞野さんが尚も言うと、緑川は持っていたオレンジジュースのグラスを瑞野さんに向け、次の瞬間


バシャっ


派手な音を立てて緑川が瑞野さんの服にオレンジジュースをぶちまけた。


え―――?


最初何が起こったのか分からなかったが、瑞野さんの淡いピンクのワンピースは僅かにオレンジ色をした染みが広がっていて


「み、緑川!」俺が緑川を見ると緑川は今まで見たことがない怒りの表情を浮かべていて瑞野さんを睨んでいた。


オレンジジュースをぶちまけられた瑞野さんも最初茫然としていたものの、すぐに近くのシャンパングラスを取り上げるとお返しと言わんばかりに緑川にぶちまける。


「何するのよ!」緑川が怒鳴った。


「それはこっちの台詞よ。最初に仕掛けてきたのは緑川さんの方でしょう。あたしに何の恨みがあって」と瑞野さんの声は冷静だったがどこか据わっている。


近くにいた社員たちが何事かこちらに顔を向け


「何!喧嘩?」とざわめきだした。


「あの二人喧嘩する程仲悪かったの?」

「まさか神流部長を取り合って?」

「そう言えば瑞野さんと部長って噂になったことあったよな」

「でも緑川さんは二村くんと付き合ってるんでしょ」


マズイ。


「あんたがいなければ」と緑川が低く唸る。


「緑川、待て」相手は間違いなく妊婦だ。ここで動揺させたり怒らせたりしたら。って言っても緑川は瑞野さんが妊娠してるなんて知らないしな、言うわけにもいかないし。


「どうしたの?」そのうち綾子が走ってきた。


ナイス綾子。


天の助け!

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