Fahrenheit Ⅳ

桐島と喋っていた瑠華も何事かこちらを見ていた。


「どうしたのよ、二人とも」と綾子が互いの濡れた服を見て心配そうに俺を見る。俺に聞くなよ、と言いたいところだが問題の二人は顔を怒ら睨み合っている状態。


「どうもこうも緑川が最初に瑞野さんにオレンジジュースをぶっかけて」俺が手振り身振りで説明すると


「何でそんなことを…?」


と綾子が緑川の肩に手を置き事情を聞こうとしている。が、緑川はその手を乱暴に払った。


「別に……」と緑川が顔を怒らせたまま何とか答える。


「あたしは、やられたからやり返しただけです」とこっちも一歩も譲らない瑞野さん。いつになく攻撃的なのは二村が関係しているからなのか。


「ちょ、ちょっと通してください」


どこからか騒ぎを聞きつけてきた二村がこっちに走ってきた。


二人の女を見て唖然とする二村。


「どうしたんですか?」二村は二人の女に話を聞くより俺に聞いてきた。


またかよ、俺に振るなよ。


「どうしてこうなったの?」と綾子が二人を心配そうに見て


「最初に掛けられたのはあたしの方です。あたし緑川さんに何かした?」と瑞野さんが主張する。確かに、瑞野さんはどちらかと言うと巻き込まれた方だ。そう主張するのは間違ってない。間違ってないが……緑川の気持ちも理解できる。


「葉月、何でそんなこと」と二村が眉を寄せて緑川の肩に手を置いたが、緑川はその手を乱暴に払った。


「触らないでよ。『何かした?』って抜け抜けと」と低く呟き二村を睨む緑川。


「とにかく話し合おう、葉月。瑞野さんもごめん」と二村は緑川を宥めようと必死だ。


「話し合う相手が違うんじゃない?」と緑川はさらに目を吊り上げ、瑞野さんを見る。


「あたしも話し合うことなんてないわ」と瑞野さんも負けじとして言い返す。


嗚呼、なんてサイアク。


「ちょっと…ごめんなさい」と遠くから様子を窺っていた瑠華が人並みを縫ってこっちへ歩いてきた。


二人の女を見て口元に手を当てる瑠華。


「何があったんですか」とこそっと俺に聞いてくる。


「何もどうも、緑川がやらかしたんだよ。瑞野さんにオレンジジュースをぶちまけて。それで瑞野さんがシャンパンを緑川にやり返した」


瑠華は頭痛でも堪えるように額に手を押さえ、


「とにかく、瑞野さん。体調が悪いって言ってましたよね。しばらく私の着てきた服を貸しますのでそれに着替えてください」


体調は悪くなさそうだが、何せ妊婦だ。腹を冷やして子供に影響を及ぼさないように、と瑠華が咄嗟に考えたに違いない。


同じく瑠華についてきた桐島は緑川に


「ユニフォームで良ければあるけど、そのままじゃ風邪ひくよ」と声を掛ける。


緑川は瑠華が自分の味方をしてくれなかったのか少し不服そうにしていたが、今瑠華が緑川と仲良くしているのは良くない状態だ。それを緑川も分かったのか、ふてくされたように桐島の案に頷き、緑川は桐島の言う裏方へと連れて行かれた。

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