Fahrenheit Ⅳ

「猛練習と皆様のお陰です」と綾子さんに微笑みかけ、そして啓たちの方へも振り返ると


「佐々木さん、本当に今までありがとうございました」


とあたしは佐々木さんに手を差し伸べた。


彼が手助けしてくれたおかげで今日は成功したようなものだ。時に記録係、時に思いがけないアドバイスをいただいた。


佐々木さんは自分を凡庸だと思っているようだが、その存在はあたしたちにとって偉大な存在。彼が居てくれて良かった。


そんな気持ちも知らず


佐々木さんは「え?え?」と慌てながら、着ていたスーツパンツで手をごしごしさせると両手であたしの手を包んだ。


それはまるで芸能人と握手するかのような仕草に見えてちょっと笑えたが、勿論あたしは芸能人でもなければ有名人でもない。


ただの女だ。


まるで宝物を包み込むような慎重で緊張に強張った手つきだったが、それすらもどこか愛し気に感じる。


「神流部長、なかなか良かったですよ」とカクテルグラスを持った村木さんが近づいてきて、啓の顔色はさっきの笑顔からさっと引きつったものに変わったが


「あ…りがとうございます」と答えると


「柏木補佐も。まるで別人ですね」とあたしの姿をまじまじと見つめてくる。


「ダンスは柏木補佐の方が上手かった気がしますがね」と。一言言われ思わず苦笑いが漏れそうになる。


「ありがとうございます」とあたしはは村木さんに頭を下げ


「実は私映画の”Shall we ダンス?が好きで」


「え?」あたしはが目を瞬いた。


「私も、好きです」


あれは確か日本発祥のドラマでハリウッド版でリメイク版が出て、あたしはハリウッド版を見たのだが。


「とは言っても私はハリウッド版ですが」


「ああ、ジェニファー・ロペスの?彼女の動きによく似ていた。本当に素晴らしかったですよ」


「お褒めいただいて光栄です」ジェニファー・ロペスの動きには到底及ばないが。


最近、村木さんとの仲も少しずつだが好転してきている。
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