Fahrenheit Ⅳ
「しっかし柏木さん凄いな~、前も見たけどドレスもすっげぇ似合ってるし」と麻野さんの声がちょっと遠くから聞こえてきた。二人は二三会話をしたようで、
「どこ見てんだよ!」啓が麻野さんにチョップをしていた。
大方、胸元やお尻の辺りを見ていたのであろう。
「仕方ないだろ、男のサガってもんだ。ほら、俺以外だって男どもの視線は柏木さんのドレス姿にくぎ付けだ」
その言葉の通り、あたしの周りには男性陣が集まっている。
「柏木補佐、すっごく良かったですよ!ドレスもきれいだし」
「バカ!キレイなのはドレスだけじゃないだろ」
とあたしが意見を言う前にあちこちで話が行き交っている。
そんなやり取りを横眼で流していると、二村さんが近づいていてきた。
出たわね。
あたしは顎をほんの少し持ち上げると二村さんを見下ろすような仕草で彼を見た。
舐めんじゃないわよ。
「柏木補佐、それ……」と二村さんは割と真剣な目で胸元に手をやり
「先日もいいましたがホンモノです」とあたしが腕を組んで目を吊り上げると、
「あはは~、軽いジョークですよぉ。それにしても凄かったですねぇ」と緑川さんと離れている状況なのに随分余裕がある笑顔。
それともこのパーティーで仲直りする秘策でもあるのかしら。
探るように彼を見ながら、あたしはウロウロしていた一人のウェイターからシャンパングラスの一つを受け取った。二村さんも同じくシャンパングラスを手に取る。