Fahrenheit Ⅳ

「すっごい練習したんですね~、見入っちゃいました」


「それはどうも」そっけなく答えビュッフェ形式に並べられたテーブルに並べられたフルーツの盛り合わせからあたしはオレンジのスラスをひとつまみ。口に含むと新鮮なのか果汁がじゅわりと口の中に広がった。


「ふ」と二村さんが笑い声を漏らし


「何か?」と目を上げると


「メイクのせいかな?今日の柏木さん一々エロい」


「誉め言葉だと思って受け取っておきます」


「勇馬も見たかっただろうな~、そうだ写真撮らせてよ。勇馬に自慢してやるんだ」


と二村さんはスーツのポケットからスマホを取り出す。


「写真は遠慮します。撮られるのは好きじゃありません」キッパリと断ると


「ちぇっ」と二村さんは子供の様に唇を尖らせる。その写真を何に使うのか分かったものじゃない。撮らせないのが一番だ。


「新年会の様子は専属のカメラマンが撮ってくれるみたいで後でDVDで配られるみたいです。葵さんにはそれを見せます」今度は小さく切り分けられたチョコレートに手を伸ばすと、二村さんはその手を掴み自分の口元へやった。


あたしはその手を乱暴に払った。


チョコレートはその場に落ちた。


「誤解を受けるような行動はとりたくないです」とそっけなく言って目を上げると


「睨まないでよ」と二村さんは大げさに肩を竦めて苦笑い。


「睨んでいません。メイクのせいでは?」と話していると


「柏木さん、シャンパンのお代わりは?」と桐島さんが近づいてきた。正直ほっとした。これ以上二村さんと無意味な話を続けるつもりもない。何かを喋って余計な情報を与えてしまうかもしれない恐れもなくなかった。


二村さんは桐島さんの登場で自然に離れて行った。


「桐島さん、ありがとうございます」桐島さんに礼を述べると


「うん。別にいいよ。しかし二村くんもしつこいね」と桐島さんもちょっとうんざりしている様子。


「何を考えているのでしょう」


「さぁ、大方こちらの動きを様子見てとこじゃない?」


様子見―――


なるほど、必要以上に啓と一緒に居ると復縁したと思われる。適度な距離感は必要みたいだ。


と話していると会場の出入口で、緑川さんと瑞野さん、それに―――啓?が何やら揉めている様子で、あたしは目をまばたいた。

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