Fahrenheit Ⅳ
塩を舐めながら、次にどうでるか考えていると
「葉月はさー、最近不安定なんだよ。妊娠してるから。すぐ怒りだしたり」
と二村さんはどこか他人事のように頭の後ろを掻いた。
本当は妊娠してないけれどね。緑川さんが怒っている本当の理由はあなたの心が瑞野さんに向いているからですよ。
だけど本当に妊娠しているのが瑞野さんだと知ったらあなたはどう出る?
いや、答えは分かり切っている。
今、彼の絶対的切り札は緑川さんだ。その為なら瑞野さんのお腹の赤ちゃんなんて簡単に切り捨てるだろう。
それともまだほんの少し人間らしい感情や愛情が二村さんに残っていたら―――?
ううん、やはり今は言わない方がいい。
あたしの一言で瑞野さんのお腹の赤ちゃん命が掛かっている。
あたしは胸糞の悪い何かを飲み込むかのように一気にウィスキーを煽り、またぞろ近くに居たウェイターに空いたグラスを手渡した。
二村さんもそれに倣い一気に飲み干したが、ウィスキーは飲み慣れてないのか一気に飲んだせいか足元をふらつかせ、ビュッフェ形式のテーブルに倒れ掛かった。
尻もちをつきあたしを見上げる二村さん。その顔はアルコールからか赤くなっている。
「二村さん、あたしに対抗しようとしても無駄ですよ。
潰れるだけです」
一言言ってやってその場を立ち去ったが、二村さんが追いかけてくる気配はなかった。