Fahrenheit Ⅳ

少しの間、ウィスキーを飲んだり啓のおじさまと話したりしていると、体が徐々に冷えてきた。


考えたらむき出しの肩の上に何も羽織ってない上、ドレスの裾はまだ乾いていない状態。髪もアップにしているから首から耳も冷たくなってきた。綾子さんに言って何か羽織るものを貸してもらおうかしら。


すると会場の出入口からあたしの着てきた服を着た瑞野さんが綾子さんに引き連れられ入ってきた。啓がすぐさまかけつけ手ぶり身振りで綾子さんと喋っている。何故かその光景を見てチクり、と胸が痛んだ。瑞野さんはあたしに気づくと


「柏木補佐、ありがとうございます。サイズぴったり」と瑞野さんはスカートの裾を少し持ち上げる。その表情はさっきの険悪なものは浮かんでおらずほんのり笑顔だった。


「でも、こんな高い服着るの初めて。汚さないように気を付けなきゃ」と不安そうにしていたが


「汚してもクリーニングに出しますので大丈夫ですよ、それより綾子さん、少し体が冷えてきたのでショールか何かあれば貸していただきたいのですが」と綾子さんに申し出ると


「そうね、いつまでもその恰好だと風邪ひいちゃうわ。ちょっと待ってて」と慌ただしく綾子さんはまたも会場を出て行った。


「柏木さん、大丈夫?」と一応心配するフリなのか啓があたしを見てくる。


綾子さんをこき使って申し訳ないが、瑞野さんも


「ごめんなさい、あたしのせいで」と恐縮している。


「いいえ、気にしないでください」と言っているとき、会場の隅の椅子に腰かけ項垂れている二村さんを発見したのか


「あの……空ちゃ……二村くんどうしたんですか?」


「さぁ、飲みすぎだと思いますよ」


そう言えば以前葵さんが二村さんはそんなにお酒が強くないってこと言ってた気がするが…正直、二村さんがどこまでお酒に強いか分からなかったが、様子を見ていると酔っているだけに見える。


「二村くん……そんなに強くないのに」と瑞野さんはさっきの険悪な雰囲気を仕舞いこんで不安顔を作る。


「そうなの?」とまだ近くに居た啓が瑞野さんに問いかけ、瑞野さんの意識は啓に戻ったのか


「まぁ休んでいればいずれ回復するでしょう」とややそっけない口調で言うと「それより部長、あっちでおいしそうなものを見ました。食べに行きませんか?」と瑞野さんは大胆に啓の手を取り、啓は名残惜しそうにこちらを見ていたがあたしはその視線に気づかないフリを決めて、赤ワインを手に取った。


ふと視線を感じてその視線の先を辿ると二村さんがこちらをうつろな目で見ていた。


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