Fahrenheit Ⅳ
すぐに綾子さんが上着のようなものを手にして戻ってきた。
「スタッフさんに聞いたらこれしかないって言われて」と手渡されたのはゆったり大きめフードのマントコートだった。赤い色をしていてマントの淵に少しだけ白いファーがふわふわとあしらってある。
「何かね、去年のクリスマスイベントにスタッフが着用していたものだったみたいだけどクリーニング済みよ。しばらくこれでいいかしら」と言われ「ええ、ありがとうございます」無いよりマシだ。あたしは素直にそのマントコートを受け取り、羽織ると寒かった首元や耳を遮るようにフードを被った。
「柏木補佐?」と声を掛けてきたのはまたマナミさんで、「わぁ、今度はお姫様みたいな赤ずきんちゃんみたいですね」と言って微笑む。
お姫様みたいな赤ずきんちゃん、という感覚がちょっと分かりづらかったが
「これ、見てください」とマナミさんはスマホのマッチングアプリを見せてきて、そこにはマナミさんと同年代のそこそこ爽やかな好青年の顔がプロフィール欄に映っていた。
「区役所に勤めている公務員らしいんです。でも、また騙されたら……柏木補佐一緒に会ってくれませんか?」
え?
「でも、私が居たらお邪魔では?」
「私、男を見る目がないんです。でも柏木補佐と一緒なら何となく大丈夫かなって」
大丈夫って……あたしだって男を見る目はない。確かに前回マナミさんはイタイ目に遭ったけれど、あれは葵さんの協力もあったわけだし。
「私も男性を見る目が肥えているわけではありませんよ?」苦笑いで一歩後ずさると
「でも!ステキな彼氏さんが居るじゃないですか!柏木補佐が大好きって感じが駄々洩れで」
彼氏…?と聞かれて、ああ、あの時一緒に居たの葵さんだっけ。とすぐ思い出した。
大好き?あの人が好きなのはあたしのお金。とは言いだせず
「分かりました。ではまたダブルデートと言う感じでどうですか?こちらが二人だとお相手も委縮してしまうかもしれませんから。特に私はこういう性格ですし」
と何とか妥協案を出すと
「いいんですか!」とマナミさんは前のめりになった。
その勢いに押されて頷いてしまった。
その時だった。
「マナミ~!」と遠くからマナミさんの同僚だと思われる女性社員の声が上がった。