Fahrenheit Ⅳ
正直ほっとした。マナミさんはいい人で面白い部分もある。けれど恋や結婚に関しては見た目に寄らず意外と貪欲。それについていけない部分もある。
「マナミ、今柏木補佐と喋ってたよね、大丈夫?何か言われてたりしてない?」
「え?何も。恋の相談をしてただけだよ」
「恋~!?あの人に相談しても無駄でしょ。恋より仕事の方…って言うか神流部長が大事って感じがするし」
ちょっと離れた場所で彼女らのやり取りが聞こえてきて、あたしは小さくため息。どうやらマナミさん以外彼女はあたしのことをよく思っていないようだ。
「大体さ~、あのドレスだってあざといし。バカな男どもは柏木補佐の恰好にくぎ付けだったけどね」
「そそ、神流部長と余興は偶然だったみたいだけど、ダンスってどうよ。あんなに体くっつけちゃってさ」
「神流部長狙い?」
「そーかも」
…………
何も知らない人たちには言わせておけばいい。
あたしと啓がどんな気持ちでこのダンスに挑んだか―――
「か、柏木補佐はそんな人じゃないよ!大体柏木補佐にはステキな彼氏がいるし」とマナミさんが養護。
「彼氏ぃ!?」と彼女たちが食いついた。
「あ……えっと偶然会って……すっごいかっこいい人。アイドルみたいな」
「アイドルぅ!?」
彼女たちの視線がこちらに向いたのが分かり、しかしあたしは彼女たちの視線から逃れることはしなかった。
睨んだつもりはないけれど、いつもより濃いメイクで睨んでいるように見られたかもしれない。彼女たちは慌てて視線を逸らした。
葵さんとは―――そんな仲じゃない。とは誰にもいえない。ただお金で繋がっただけの協力者。
あたしはまだ会場の隅の椅子に腰かけぐったりと項垂れている二村さんを見ると、二村さんの視線の先は、瑞野さんと啓がクラッカーの上にイタリアントマトとブルーベリージャムを乗せたクラッカーを食べている様子をぼんやりと眺めていた。
二村さんの視線の先を辿ったわけじゃない。やはりあたしも啓を―――目で追っていた。
あたしの服を着た瑞野さん。二人は―――お似合いだった。
何の弊害もなく、何の確執もなく、瑞野さんが本当に啓を好きだったら―――
本来ならあたしの居る場所。
その言い知れぬ不安が伝わったのか、啓がこちらを振り返った。目と目が―――合った。
あたしは啓の姿を眺めながらゆっくりとフードを外した。