Fahrenheit Ⅳ
雨も降ってきたし、空も分厚い雲のせいか暗くなりはじめている。俺は瑞野さんをタクシーで帰るよう万札を手渡し、俺と佐々木はJRで帰ることにした。
家に帰りついて
”さっきはごめん。無視するようなことして”
でも俺の気持ちは―――と打とうとして
出来なかった。
結局最初の一文を打ったが、メールはいつまで経っても既読が付かなかった。
その晩、夢を見た。ダンスが成功したこととアルコールを口に入れたことで眠りにはすぐに入れたが、眠りは浅かったみたいだ。
ゴールドのドレスの上に赤いマントコートを着た瑠華の姿が浮かび上がる。少し離れた場所で俺たちの視線が合うと彼女はマントのゆったりとしたフードをゆっくりと外した。印象的な目が俺をじっと見ている。
そんな目で―――俺を見ないでよ。
視線を逸らしたいのに、逸らせない。俺たちはただ二人だけの世界で見つめ合って、やがて瑠華は踵を返して後ろに振り向いてしまう。
今度は俺が追う番だった。
俺は腰を折り、瑠華の赤いマントフードの裾を手で掴むと、瑠華がこちらに振り返った。
その顔はただ無表情で、感情と言う感情を全て無くしてきた、出会ったときのあのときの顔だった。
「これでまた振り戻しですね」
彼女は静かに言った。
振り戻し―――
そうかもしれない。それは俺たちが出会ったあの四月の時か、それとも別れたばかりのときか。
「こんなとりとめのない愛などに縋りつかなければ良かった。溺れたくなかった。今のあたしに何が残されてるの」
彼女は顔を真上に向け、目を閉じながら泣いていた。
瑠華―――何もかも失ったわけじゃないんだ。これから取り戻すんだ。
そう言いたかったけれど言葉は出てこない。
夢はそこで終わった。
はっとなって飛び起きると、いつも起きる時間帯だった。
嫌な―――夢だ。今日一日何もなければいいのだが。