Fahrenheit Ⅳ


20XX年 1月 6日 金曜日


その日、いつもの時間に瑠華は出勤してこなかった。


始業時間30分前に佐々木が、その五分後には瑞野さんが出勤したが、瑠華はまだだ。


今朝―――?いや、夜中なのか見た夢が鮮明に蘇る。


いや、ただの夢だ。何もない、と信じたい。


「あれ?柏木さんはまだですか?」


いつも自分より先に出勤している佐々木が瑠華の不在を心配していた。


「やっぱり風邪ひいちゃったんじゃ……部長、何も聞いてませんか?」


「いや、何も…」


「心配ですね」と瑞野さんも不安顔。


そんなことを話し合っていると、瑠華が出勤してきた。


ゴージャスなファーとカシミアのマフラーが一体化したピンクベージュのコートを脱ぐと、その下はラベンダー色がきれいな総レースのカットソー、そして同系色のタイトスカート。いつものナチュラルメイクに髪もみつあみを混ぜ込んだ凝ったアップの髪形だった。


「すみません、少し寝坊をしてしまいまして」と瑠華は無表情に言って頭を下げてきた。


いつも通りの恰好の瑠華の登場に少しばかりほっとした。もうこのまま会えないんじゃないか、とすら思っていたから。


「始業時間前だし、まだまだ時間はあるから全然問題ないよ」と強引に笑ったが、瑠華は無表情に頭を上げ、自分のデスクに着くとPCの電源を入れている。


「無事でよかったですー。風邪でも引いちゃったかもと思って」と佐々木が瑠華に喋りかけ


「ご心配をお掛けしてすみませんでした。昨日は少し飲みすぎたみたいで」と瑠華は佐々木に説明。


「そんなに飲んでました?」と佐々木が突っ込み


「ダンスの緊張とかあったのでしょうね。私も酔うときはあります」と瑠華は淡々と答えている。


「大変でしたね。でもすっごくステキでした。あ、そうだ、柏木補佐に借りたお洋服、まだクリーニングに出せてなくて」瑞野さんが言うと


「いえ、結構です。あれはあなたに差し上げます。よく似合っておいででしたので」


「え!」瑞野さんが口を開ける。「それは流石に!だってすごく高そうなお洋服でしたよ」


「気にしないでください」瑠華は言い、それ以上は話を続けたくなさそうにデスクの引き出しからいくつかの資料を取り出している。


俺と瑞野さんは思わず顔を見合わせた。
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