Fahrenheit Ⅳ

午前中はこれといったトラブルもなく時間は淡々と過ぎて行った。瑠華は俺に極力接触してこないような気がした。それでも淡々と仕事をこなしている。昼休憩になるとき


「佐々木さん、ちょっと相談したい案件があるのですが。何せ古い案件なので佐々木さんがよくご存知かと。ランチご一緒にどうですか?」と瑠華が言い出し、名指しされた佐々木は目をまばたいて自分を指さし。


前はよく佐々木とランチしてたし、それほど不思議な光景ではなかったが、最近は瑞野さんと取っていたのに。


それでも佐々木は久しぶりに瑠華とランチに行けるのが楽しみだったのかすぐに嬉々として頷いた。


瑠華と佐々木がランチに行ったあと、後に残された瑞野さんは


「やっぱり……お洋服返すべきですよね。あたしが着た服なんて着たくないんじゃ……」と瑞野さんが俺が頼んだ書類のホチキス留めをしながら不安そうに俺の顔色を窺ってきた。


「大丈夫、大丈夫。あのひと、誰かにものをあげることいやがるタイプじゃないから。瑞野さんが気にし過ぎ。前も緑川にたっかい口紅あげてたしな」


言った後になって、はっとなった。昨日の今日だ。今緑川の名前を出すのはまずかったかな。


しかし瑞野さんは僅かに苦笑いを漏らしただけで


「昨日の出来事はもう何も思ってません。あたしも大人気なかったかなって」


と軽くスルー。緑川にも分けてあげたいよ、この心の広さ。それともまた何か企んでるのか?


む゛ー


今まで女に対して百戦錬磨だった俺様が俺は今女たちに振り回されている。


しかし瑠華と佐々木が同じ時間に昼食に入ったってことは、俺と瑞野さんが自然一緒に入ることになるじゃん!


また変な誤解を生みたくない。


それに瑠華は明らかに俺と瑞野さんを避けているように見えたし。


「あ、俺一件外回りのアポ忘れてたワ。今ならまだ間に合うから柏木さんと佐々木が戻ってきたら、瑞野さんもランチ入って」


と言って慌ただしくコートを手に適当に書類をビジネスバッグに詰め、俺は社を出た。

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