Fahrenheit Ⅳ


「真咲の具合はいかがですか?」と聞くと


「ええ、今は自宅療養中です。まぁ妊娠したわけだから会社にも報告しなきゃ、で。当然僕たちが結婚したことも」


「で、とちらかが異動に?」


「真咲が港区の支社に異動に。産休育休後ですがね。それまでは一緒に働けます」


そっか…それなら良かった。


「はぁ、女性は大変ですね。特に真咲は仕事が好きだったから港区に異動になったこと、ちょっと不満らしく家に帰ったらその愚痴ばかりですよ」と菅井さんは苦笑い。


「大抵飛ばされるのは女性の方ですからね」


「何ででしょうね。女性は約10か月間を不安定な状態でいて痛い思いをしてやっとの思いで産んで、その後も育児があるわけでしょう?それなのに飛ばされるのは女性の方だなんて」


菅井さんに同意する意味で俺も大きく頷いた。そこが社内恋愛の難題だ。


別に悪いことをしたわけではないのに。損をするのはいつも女の方だ。


「そう言えば柏木さんはお元気ですか?」と、突如として聞かれ俺は飲んでいたお冷を吹き出しそうになった。


「あー、そのぉ……元気ですよ」と答えるしかできない。


「まだ仲直りできてないんですか?」と菅井さんがちょっと不安そうに眉根を寄せた。


「事態が深刻で…」と俺も何とか答える。


「まぁお二人ならすぐ仲直りしますよ。特に柏木さんみたいなタイプには神流さんが謝ったらすぐ仲直りですよ」


菅井さんは菅井さんなりに精一杯元気付けてくれてるのが分かっているが、そう簡単な問題じゃない。


その問題を言えやしないが。


泣きそうになりながら俺はお冷をぐいと飲み干した。


そのうちサバ味噌定食が運ばれてきて、それはうちの社食で食べるサバ味噌と雲泥の差でふわふわと、上品な味噌の味が口いっぱいに広がる。


「うま」思わず口から出ると


「おいしいものを食べると元気が出るでしょう?そうだ、柏木さんにも何か差し入れしたらどうですか?餌で吊るのはどうかと思うかと思いますが」と菅井さんは苦笑い。


美味しいもので吊る?差し入れ?


なるほど。

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