Fahrenheit Ⅳ

午後も慌ただしく業務を終え、定時になってすぐ誰よりも早く瑠華から日報が届いた。


え?もう帰っちゃうの……


やっぱり居づらいのかな。


「今日はちょっと用事がありますのでお先に失礼します」と瑠華はコートとバッグを持ってさっさと立ち去っていった。


「珍しいですねー、柏木さんが一番最初って」と帰って行く姿を見送りながら佐々木が首を傾げている。


「予定でもあるんだろ、お前も今日は早く帰れ。新年早々長居するのはよくない」と言うとついで瑞野さんから日報が届いた。


「あたしもお先に失礼します」


「あ、うん。気を付けてね」妊婦にあまり長々と仕事をさせるのも良くない。特に今日菅井さんに会ったばかりだからかな。真咲とその姿が重なった。


瑞野さんはぺこりと頭を下げ帰って行った。それから十分後佐々木からも日報が届き佐々木も帰って行き、部署に残された俺は一人。


コーヒーでも淹れにいくか、と思って給湯室に向かい何となく冷蔵庫を見ると、午後瑠華の為に買ったプリンは無くなっていた。


いつの間に食べたのか。


まさか食べずに捨てられている?と思ってゴミ箱を覗き込んだが、瑠華用に買ったマンゴープリンはカップがきれいに洗われていて資源ごみに入れられていた。


ほっ、食べてくれたんだ。


しかし、これだけで瑠華の心が溶けたとは思えない。


氷のように冷え切った瑠華の心を俺は時間をかけて温めてきたつもり。それは徐々に溶けつつあったのに、あっという間にまた凍り付いてしまった。


俺の些細な行動で、瑠華は―――心をまた閉ざしてしまった。


それはマックスのときと同じぐらいのものなのかそれ以上なのか、それ以下なのか。


比べたくないのに、いつも俺は何かあると比べてしまう。


大事な人だからこそ、傷つけたくないのに―――どうしても傷つけてしまう。


俺は―――これ以上どうすればいいのだろう。


どうしたら瑠華の心は溶けるのだろう。


壊れたおもちゃを拾うように、俺は慎重な手つきで現れたプラカップを


拾い上げた。

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