財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~
「社長、九石精工には今のところ変わった様子はありません。警備の者を数名、配置させました」
「助かる」

 九石精工は下町の町工場だ。
 情報管理は片桐キャピタルではなく、俺が個人で一任している。
 だからこそ、全責任は俺にある。
 
 応接用のソファの背もたれに体を預けると、ようやく静寂が戻ってくる。
 だが、頭の中は騒がしいままだ。
 
 九石精工のライバル会社が仕掛けてきた罠なのか。片桐に恨みを抱く者の犯行なのか。
 それとも──俺個人に恨みを持つ者が、牙を剥いたのか。

 ……何が目的だ。抜き取られたデータは、確かに重要だ。
 だが、その〝重要さ〟が、どうにも腑に落ちない。

 技術そのものを悪用するためなら、もっと深夜帯の、人目につかない時間に実行するはずだ。
 大企業の管理されたオフィスネットワークに侵入し、二重ロックを突破するほどの技術力があるなら、痕跡を残さずに持ち去ることもできるだろう。
 なのに、監視の目が効く日中の時間帯にアクセスしてきた。
 わざわざ検知される可能性の高い時間帯を選んでいることが、どうにも引っかかる。

 ……俺に気づかせるために? 胸のざわめきが収まらない。
 誰が、何のために、なぜこのタイミングで……。
 考えれば考えるほど、答えは霧の中へと沈んでいく。その時だった。
 ドアを叩くノック音がし、静寂を破った。
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