財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~
 昼過ぎからは、職場である幼稚園へ向かった。

 仕事に集中していれば、心の不安定な部分を少しだけ誤魔化せる気がした。
 園児たちの笑顔は、今の私には救いだった。けれど──惺也くんのことが頭から離れない。
 そもそも、私が彼の提案を受け入れなければ、片桐グループ全体の損失も出なかったはずだもの。
 自責の念は、日に日に深まっていく。

 十四時半を過ぎると、園児たちは帰りの支度を始める。
 紐付きの手拭きタオルをカバンに入れ、自分の荷物は自分でまとめる。
 用意ができた子から席に座って、帰りの会が始まるのを待つのだ。

 そんな園児たちを急かすことなく待つために、私は園児たちのリクエスト曲をピアノで弾く。

「今日は何の歌にする……?」
「しあわせのおと~!」
「あたしも!」
「じゃあ、今日は『しあわせのおと』にするね~」

 クラスの子たちが大好きな曲『しあわせのおと』
 野菜を切るトントン、髪の毛を乾かしてくれるブォ~、荷物が届くピンポン、電車に揺られるガタンゴトン。
 オノマトペが好きな子どもたちは、体を揺らしながら楽しそうに口ずさむ。
 それぞれに好きな音があって、それぞれにしあわせがあるのが素晴らしいという意味が込められている。
 家族や友だちと過ごす大事な瞬間を切り取ったこの曲は、毎日のようにリクエストされる曲でもある。

 園児たちは歌に集中したいから、頑張って帰り支度を済ませて、自分の席に着く。
 そんな子たちが奏でる、椅子を引く音やカバンのファスナーを閉める音。
 そして、私のピアノに合わせて歌う歌声が、私は大好き。

「では、帰りの会を始めます――」

 今日もクラスの子たちの成長を見届けられて、私は本当に幸せだ。
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