財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~
 リビングに片桐くんを通すと、緊張した面持ちの両親が彼を見るなりぎこちなく会釈した。

「片桐惺也と申します。本日はお時間をいただきまして、ありがとうございます。お口に合うかわかりませんが、良かったら召し上がってください」

 片桐くんは、母にカゴ盛りを差し出した。

「あら、ご丁寧にありがとうございます。次からは手ぶらでいらしてね」
「……はい」

 母が受け取ると、彼は所作を正して深々と一礼した。
 完璧な所作、落ち着いた声音。隣にいる私へと自然に視線を移し、優しく微笑む。
 まるで──〝君のご両親に挨拶できて嬉しいよ〟と言っているみたいで、胸がくすぐったくなる。

 ……わかってる。これは建前上の笑顔。――そう、営業スマイル‼

 両親がソファに腰かけ、続いて片桐くんも腰を下ろし、私も隣に座る。
 
「お口に合うといいんだけど……」

 母は紅茶を注ぎ、手作りのマドレーヌを彼の前に置いた。
 今朝、彼が来ると伝えたら『それならマドレーヌを焼きましょ!』と張り切ってつくってくれたものだ。

 片桐くんは一口食べて、ふわりと表情を緩めた。

「……とても優しい味がして、美味しいです」
「お世辞でも、そう言っていただけると嬉しいわ」
「お世辞なんかでは……」

 真顔で言い返す彼を目にし、本当に美味しいと思ってくれている気がして、胸が少し解れた。
< 51 / 165 >

この作品をシェア

pagetop