財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~
 生活費は全額、片桐くんが負担。
 職場や外出時の送迎義務。
 入籍と同居。
 住む場所はこのマンション。
 寝室は同室、ベッドは同じものを使用。
 外部には〝自然な夫婦〟として振る舞うこと。
 九石精工の再建支援は無期限。
 新規事業の立ち上げは、片桐くんが全面監修。

 ……細かい、細かすぎる。
 これは〝夫婦〟じゃなくて、完全に〝契約相手〟だ。
 胸の奥がサーッと冷えていく。

「……本当に、契約結婚なんですね」

 思わず漏れた声は、自分でも驚くほど小さく弱々しかった。
 片桐くんは契約書から顔を上げ、真っすぐに私を見つめる。

「形式上の契約だが……俺は本気だ」
「……え?」

 その言葉はまるで愛の告白みたいに聞こえるのに──私にはどうしても、九石精工の技術が欲しいからとしか受け取れない。
 彼にとって結婚は〝手段〟。私の存在意義は、九石精工の技術を手に入れるため。そのためには、〝外部への信用アピール〟が必要不可欠だということ。
 そう思った瞬間、胸がきゅっと抓まれたように痛みを帯びた。

 彼の価値観を知った私は、あまりにも奇想天外な結婚を承諾してしまったけれど、本当にやっていけるのかな……という不安が静かに胸の内に広がっていった。
< 55 / 200 >

この作品をシェア

pagetop