銀河の雫
「うん、まぁ。実はさ……昔、好きだった人がいてね。橘さんっていうんだけど」

少し照れくさそうに答えた。

「もしかして、その橘さんがこの会社に?」

「うん。ただ、付き合ってたのは二十年も前なんだけどね」

「それって……」
「あぁ、違う、違うの」

言葉を遮るように、彼女は少しだけ声を張った。

「どんな場所で、どんな人と、どんな仕事してるのか、肌で感じたかったから……それだけの話」

少し顔を紅潮させながら早口で答える。

「その橘さん、もう見つかったりした?」

「見つかるもなにも、どこにいるのかは最初から知ってる」

「……えっ、そうなの? ここのビル?」

「ううん……東京本社」

顔を上げず、スマホをスクロールしている。

「東京か……」

「……橘さんね、別れ際に一生、誰とも結婚なんてしないって言ったんだ」

「そうなんだ……」

「その言葉が頭から離れないんだよね」

「うん」

「小さい頃、家庭が複雑だったみたい。自分が夫とか親になるイメージが湧かないって」

彼女は、少し悲しそうに見えた。

「別れ話も遠距離になるなら別れようって、一方的に言われちゃった」

「そうだったの」

「あのとき、彼を責めずにもっと違った言葉をかけてあげれば良かったとか、どうして彼の気持ち分かってあげられなかったんだろうとか……自問自答っていうか、後悔ばっかりなんだよね」

「本当に……好きだったんだね」

「まぁね。いっそのこと、他に女ができたとでも言ってくれたら、こんなに引きずることもなかったのかも」

私は黙ってうなずく。

「結局、喧嘩別れになって連絡先すら知らないままなんだよ」

「そっかぁ……」

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