愛が全てじゃないけれど

 ホラーも見る。

 一話完結だとなお見やすい。

 そんなドラマや映画にも、恋愛は絡む。

 そして、一昨日の夜見たドラマのヒロインが親友に言われたのが、この台詞。

『同情? 結構じゃない! じゃんじゃん同情してもらいましょう? それで楽しめるならいいじゃない! 私は可哀想な女なの。だから、美味しいものを食べさせて! 高級なプレゼントをちょーだい! 最高に気持ちいいセックスで全てを忘れさせて! ってね』

 ヒロインは親友に言われた通り男に会うが、デザートの前に事件を知らせる電話が元カレからかかってきて、店を出て行く。

 この親友が言った『同情』の言葉が、しばらく私の頭の中でぐるぐる回っていた。


 で! 私は今、さして急ぎでもない資料に囲まれている、と。


 ため息を吐き、ディスプレイから顔を上げて首を回し、またため息を吐く。

 机の隅に伏せてあるスマホを手に取ると、AIが私の顔を認識してロックを解除した。

 未読のメッセージが二件。

 どちらもショップのDM。

 急に、疲労感に襲われて、スマホを戻す。

 五時間前に約束のキャンセルと謝罪を伝え、その三十分後に了解のメッセージが返ってきた。

 それだけ。

 普通だ。


 なのに、メッセージがきてないからって……。


 これは、気にしちゃだめなやつだ。

 それは経験でわかる。

 迷って、迷うくらいならやらないことにして、やらなかったことを少し後悔する。

 悶々として、少しの後悔が膨らみ、けれど時間もチャンスも戻らないから諦める。

 そして、次は、次こそは、迷ったら挑戦しようと決めて、なのに、また同じことを繰り返す。


 そうして、自己嫌悪と自信喪失の負のループから抜け出そうと仕事に走り、その結果、鬼がパワーアップする、と。


 仕事ならば同じ間違いは繰り返さない。

 決して。

 それに、迷わない。

 たとえ失敗しても、それをまた次に生かす。


 なのに、プライベートでは……。


 机に肘をつき、手で頭を抱え、盛大なため息を吐く。

「でけぇため息」

 頭上からの声に顔を上げると、蜂谷さんがポケットに手を突っ込んで立っていた。

 終業時間が過ぎて一時間。

 金曜の夜とあって、もう誰も残っていない。
「お疲れ様です」

「お疲れ。急ぎの仕事か?」

「ええ、まぁ」

「新卒応募者のデータ入力が?」

 蜂谷さんがファイルをペラリとめくる。

「……はい」

「不採用者のデータなのに?」

「……急ぎじゃないからと放置していたら、二年分が溜まってしまったんです」

「だとしても、主任が残業してまでやることか?」

「つい、時間を忘れただけです」

「なら、予定はないってことだな。飯、行くぞ」

 パタンッとファイルを閉じると、彼は五冊全てを持って、壁際に並ぶキャビネットに片付けた。


 飯……って――。


「蜂谷さん、私――」

「――男とは別れたんだろ?」

「え?」

「支倉」


 なんで知って――。


< 19 / 49 >

この作品をシェア

pagetop