愛が全てじゃないけれど
だから、二人きりでいて、恋人のように見えたとしたら、仕事終わりに食事をしていたか、休日のことだろう。
それも、付き合っていたのは八か月で、蜂谷さんが本社に戻ってきたのは半年前。
よりによって、としか思えない。
「嘘を吐いて合コンに行ってたくらいで、別れると思います?」
「それだけじゃないんじゃないか」
「え?」
「あれだけで怒って別れる女もいるだろうが、お前が話も聞かずに決めたのは、他にも理由があったからじゃないのか」
ムカついた。
さも私を理解しているような口ぶりに。
「どうでしょうね」
可愛くない言い方をした。
わざとではなく、無意識に。
「大熊」
「たとえ慶太朗と別れたとしても、蜂谷さんと食事に行く理由にはならないですよね」
「合コン相手がいるからか?」
「それも――っ! 関係ないじゃないですか!!」
優しい口調で尋問のような質問を投げられ、イライラする。
彼を睨みつけて言えない自分にも。
「恋人がいるくせに合コンして、その相手が恋人よりハイスペックだったから乗り換えた。それだけかもしれないでしょう!? その人を逃がさないように、蜂谷さんの誘いは断るんですよ。もっとハイスペックな男以外は!」
ムキになってなる必要、ない。
無視すれば、いい。
食事になんか行きたくないと言って、帰ればいい。
なのに、足が動かない。
「ならその合コン相手と付き合うのか?」
「……蜂谷さんには――」
「――答えろ」
俯いていた私は、正面から伸びてきた手に気づくのが遅くて、肩を抱き寄せられても抵抗できなかった。
なん……で――。
強く抱きしめられ、もしかしたら抱き寄せられる前に気づいても抵抗できなかったかもしれない。
とにかく、私は蜂谷さんに抱きしめられている。
三年半前のキスの時のように、終業時間後の人事部で。
「蜂谷さ――」
「――いつから付き合ってた?」
「え?」
「支倉のこと、いつから好きになった?」
深く考えなければ聞き流せたその言い回しを、私は聞き流せなかった。
以前は、三年半前は違っただろうと言われているように思ったのは、私の問題だろう。
まるで、いつ自分への気持ちを吹っ切ったのかと聞かれているようで、カッとなった。
「そんなこと――っ」
私は力いっぱい彼を押し退けると、三歩後退った。
とはいえ、私の力いっぱいなんて蜂谷さんを突き飛ばすほどじゃない。
ほんの少し仰け反って私を手離しただけ。
「――蜂谷さんには関係ないでしょうっ!」
私が大きな声を出したせいで、その後の静寂は息遣いも憚られるほど。
そして、そんな気まずい沈黙の中で、彼はただじっと私を見ている。
見つめて、いる。
それも気まずくて視線を逸らそうとした。
が、させてもらえなかった。
彼の私を見る目が、逸らすなと言っているようで。