愛が全てじゃないけれど
4.差し伸べられた手


 悶々とした週末を過ごすのは嫌だったのに、そうなってしまった。

 すべては、蜂谷さんのせい。


 峰濱さんと食事に行けば良かった……。


 自己嫌悪と自信喪失はまだまだ続く。

 来週から、蜂谷さんの顔を見るたびにムッとして、その度に心の奥にしまい込んだ想いを引っ張り出される。

 今も好きなわけじゃない。

 だって、私は確かに慶太朗のことを好きだった。

 蜂谷さんが戻って来た時、動揺はしたけれど悟られるほどじゃなかったのは、慶太朗と付き合っていたから。

『久しぶりだな』と他のみんなと同じように声をかけられて、みんなと同じように『お久しぶりです』と笑えたのは、今の私には恋人がいて、彼のことなんか忘れたわと自分に言い聞かせられたから。

 意地だ。


 なのに――。


 慶太朗と付き合っていたのを知られ、裏切られたのを知られ、合コンに行ったことも知られ。


 それで食事に誘われるって、どういうこと!?

 それより、なんで抱きしめたりなんか――!


 大混乱だ。

 私はその夜、目を閉じては開けて、何度も寝返りをして、日が昇る頃にやっと眠りについた。

 だから、目が覚めたのはすっかり陽が高くなってから。

 重い体を起こして、賞味期限が一日すぎた菓子パンを食べ、いつもの休日のように掃除と洗濯をした。


 買い物……。


 面倒くさい。すごく。

 煌々と明るい冷蔵庫を覗いて、ため息を吐き、ルームウェアを脱ぐ。

 セーターを被ったところで、スマホが鳴った。

 急いで袖を通して、スマホを取る。

〈MINE〉の表示にひゅっと息を吸った。

「もしもし」

『こんにちは』

 峰濱さんの落ち着いた声に、少しホッとした。

 昨夜の食事をキャンセルしたことで、もう連絡を取ることはないと思っていたから。

 そして、それを少しだけ寂しく感じていたから。

「こんにちは。昨日はすみませんでした。せっかく誘ってくださったのに」

『残業がなければ、来てくれた?』

「っ!」

 迷いを見透かされたようで、一瞬言葉に迷う。

 けれど、眠れないベッドの中で、自分の選択を後悔したことを思い出す。

「はい」

『良かった』

「あの、今度は私から誘わせてください。ご都合の良い――」

『――そんなに畏まらないで』

「え?」

『俺は上司でも取引相手でもないよ』

「あ……すみま――ごめんなさい」

 ほんのわずかな沈黙の背後で、カチッカチッと規則的な電子音が聞こえる。

 多分、ハザードランプ。

『今、何してた?』

「え? あ、買い物に出ようかと……」

 誰が見ているわけでもないのに、スースーする足元が恥ずかしくなってベッドに座る。

『そう』

「峰濱さんは? 移動中ですか?」

『うん。ちょっと仕事をしてきた帰り道』

「そうですか。大変ですね、休日まで」

『初めてだよ。食事をキャンセルされて仕事する気を失くしたのは』

「え?」

『いつもは、空いた時間に目いっぱい仕事したのに』

 反応に困る。

 私のせいですみませんと言うのも、なんだか自意識過剰な気がする。

 ベッド脇の時計を見ると、長針と短針が三の少し下で重なっていた。

「もし……今夜、誰かと食事をする予定がなければ、ご一緒しませんか?」

 初めてだ、と思った。

 こんな風に改まって男性を食事に誘うのは。
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