愛が全てじゃないけれど
社内でたまに、意中の男性に食事に連れて行ってほしいと強請っている子を見かけるけれど、いざ自分がやろうとするとこんなに恥ずかしくて緊張するとは。
しかも、あの子たちみたいに可愛く強請るのとは大違いだし――!
たった一、二秒、峰濱さんの返事までのそんなわずかな時間が、やけに長く感じてしまう。
『誰とも食事をする予定がないので、ぜひご一緒させてください』
その言葉の裏側で、彼が笑っている気がした。
五時に会う約束をして、電話をきった。
迎えに来ると言った彼は、最寄り駅か近所の目印になる建物を聞いた。
住所を聞かれていたら、答えるのを迷ったかもしれない。
私はマンションから徒歩五分の駅ではなく、徒歩八分の複合施設の名前を告げた。
私は着たばかりのセーターを脱いで、タートルネックのニットにジャケットを羽織り、会社に行くんじゃないからと思い直して脱いだ。
仕事用に買ったはいいけれどちょっと色味が仕事向きではないように感じて着ていなかったボルドーのシフォンブラウスに、同じくネットで買って穿いていなかったタイトのロングスカートを合わせた。
仕事ではつけないネックレスに、文字盤が小さくてブレスレット同然の仕事向きではない腕時計、仕事用より少し高めのヒール。
仕事用のミドル丈のコートではなくロングのものにして、仕事用の半分くらいの大きさのバッグに財布とスマホとメイクポーチを移した。
気合入り過ぎ……?
すっかり準備ができてから心配になっても、もう遅い。
折角休日に会うのだから、仕事帰りならできない格好でいいだろうと自分を納得させて玄関を出た。
休日の慶太朗はカジュアルな服装が多く、なんとなく私も合わせていた。
車を持っていないから、出かける時は歩きやすい服装の方が都合が良かったし。
ともかく、今日の私は動きやすさより見栄を優先して、履き慣れないパンプスに歩きにくさを感じながら待ち合わせ場所に急いだ。
五分早く着いたにもかかわらず、峰濱さんは既にそこにいた。
黒のSUVはどこにでもあるけれど、やけに艶のある彼のそれは特別に感じる。
高級外車なわけじゃない。
私の気分が高揚しているからそう感じるのだろう。
要するに、舞い上がっている。
私の姿を見つけて運転席から降りてきた峰濱さんは、グレーのボタンダウンシャツに黒のジャケットとスラックスで、月曜日に会った時より心なしか髪が短い。
彼は助手席のドアの前で私と向き合うと、微笑んだ。
「この前と印象が違うね」
「この格好で仕事はできませんから」
「確かに」
私が乗る為だけにドアを開けてもらうなんて、なんだかくすぐったい。
スカートの裾とヒールに気をつけて乗ると、ゆっくりとドアが閉められた。
私が知っている一般的な車と比べてシートは柔らかく、温かい。
つい数分前に掃除したかのように磨かれて埃のない車内。
指紋を残さないようにしないと。
私はシートベルトを締めると、膝の上のバッグを抱きしめた。
「何が食べたい?」
運転席の乗り込んだ峰濱さんが聞く。
聞かれたら、なんて言うかは考えてきた。
「昨日は、どこを予約してくれていたんですか?」
「あまり気取らない、料亭」
しかも、あの子たちみたいに可愛く強請るのとは大違いだし――!
たった一、二秒、峰濱さんの返事までのそんなわずかな時間が、やけに長く感じてしまう。
『誰とも食事をする予定がないので、ぜひご一緒させてください』
その言葉の裏側で、彼が笑っている気がした。
五時に会う約束をして、電話をきった。
迎えに来ると言った彼は、最寄り駅か近所の目印になる建物を聞いた。
住所を聞かれていたら、答えるのを迷ったかもしれない。
私はマンションから徒歩五分の駅ではなく、徒歩八分の複合施設の名前を告げた。
私は着たばかりのセーターを脱いで、タートルネックのニットにジャケットを羽織り、会社に行くんじゃないからと思い直して脱いだ。
仕事用に買ったはいいけれどちょっと色味が仕事向きではないように感じて着ていなかったボルドーのシフォンブラウスに、同じくネットで買って穿いていなかったタイトのロングスカートを合わせた。
仕事ではつけないネックレスに、文字盤が小さくてブレスレット同然の仕事向きではない腕時計、仕事用より少し高めのヒール。
仕事用のミドル丈のコートではなくロングのものにして、仕事用の半分くらいの大きさのバッグに財布とスマホとメイクポーチを移した。
気合入り過ぎ……?
すっかり準備ができてから心配になっても、もう遅い。
折角休日に会うのだから、仕事帰りならできない格好でいいだろうと自分を納得させて玄関を出た。
休日の慶太朗はカジュアルな服装が多く、なんとなく私も合わせていた。
車を持っていないから、出かける時は歩きやすい服装の方が都合が良かったし。
ともかく、今日の私は動きやすさより見栄を優先して、履き慣れないパンプスに歩きにくさを感じながら待ち合わせ場所に急いだ。
五分早く着いたにもかかわらず、峰濱さんは既にそこにいた。
黒のSUVはどこにでもあるけれど、やけに艶のある彼のそれは特別に感じる。
高級外車なわけじゃない。
私の気分が高揚しているからそう感じるのだろう。
要するに、舞い上がっている。
私の姿を見つけて運転席から降りてきた峰濱さんは、グレーのボタンダウンシャツに黒のジャケットとスラックスで、月曜日に会った時より心なしか髪が短い。
彼は助手席のドアの前で私と向き合うと、微笑んだ。
「この前と印象が違うね」
「この格好で仕事はできませんから」
「確かに」
私が乗る為だけにドアを開けてもらうなんて、なんだかくすぐったい。
スカートの裾とヒールに気をつけて乗ると、ゆっくりとドアが閉められた。
私が知っている一般的な車と比べてシートは柔らかく、温かい。
つい数分前に掃除したかのように磨かれて埃のない車内。
指紋を残さないようにしないと。
私はシートベルトを締めると、膝の上のバッグを抱きしめた。
「何が食べたい?」
運転席の乗り込んだ峰濱さんが聞く。
聞かれたら、なんて言うかは考えてきた。
「昨日は、どこを予約してくれていたんですか?」
「あまり気取らない、料亭」