愛が全てじゃないけれど


*****

〈金曜、予定空いてないかな。会いたい〉

 成悟さんからのメッセージが届いたのは、鉄板焼きを食べた日から十七日後。

 ただ予定を聞くだけでなく、『会いたい』と添えてくれることが嬉しい。

〈私も会いたいです〉

 自分が打ったメッセージを見て、唇の端がムズムズしてしまうのは、きっと今までの恋愛とは全く違うから。

 これまでは、友達、上司、同僚として知り合い、親しくなり、恋愛感情をもってきた。

 でも成悟さんに関しては、最初から恋愛関係に発展するかもしれない前提で知り合い、そうなるために親しくなろうとしている。

 彼のメッセージ、言葉、視線の全てが、私を『女』扱いしている。

 だから、私も彼を『男』扱いする。

 猫を被るつもりはないが、やはりいい印象をもたれたい。


 しばらく恋愛はいらないと思ってたのに……。


〈良かった。時間と場所はまた連絡します。楽しみにしているよ〉

 飾らない彼の言葉は、ストンと胸の奥に落ちて、ふわっと温かい。

 相手を深く知って好意が愛に変わっていく恋愛とは違い、愛するために互いを知っていく恋愛は、心が忙しくて楽しいと感じていた。

 水曜の夜に待ち合わせの時間と場所が届き、私がキャンセルした日に予約してくれていた料亭に行くと知った。

 木曜の夜には鏡の前でひとりファッションショーをし、入念に肌の手入れをして眠った。

 ところが金曜日の昼休み、成悟さんからキャンセルのメッセージが届いた。

〈ごめん、会食の予定が変更になって今夜になってしまった。約束を延期させてください〉

 メッセージを見た瞬間、頭に何キロもの荷物を載せられたように、頭も身体も重くなった気がした。

 深いため息を吐き、返信する。

〈わかりました。残念だけど、お仕事頑張ってください〉


 あ~あ……。


 椅子の背に身体を預け、仰け反る。

 天井を見つめ、もう一度ため息を吐いた。


 私、自分で思ってた以上に楽しみにしてたんだなぁ……。


 私が約束をキャンセルした時、成悟さんもこんな気持ちだったのだろうか。


 いや、あの時はまだそこまで……。

 でも、仕事する気にならなかったって、言ってた。


 わかる気がした。

 定時退社できるように、昨日から気合を入れて仕事を片付けていた。

 約束がなくなったんだから午後はのんびりやればいい。

 なのに、やる気になれない。

 成悟さんは忙しい。

 経営者という立場を考えれば当然だろうが、前に会ってから早三週間だ。

 その間、毎日のようにメッセージはくるし、週末は電話もくれた。

 とはいえ、成悟さんは口数の多い人ではなく、あまり会話が続かない。

 私も似たようなもので、表情が見えない電話は特に苦手だ。

 だから、会いたかった。

 比べるわけではないが、奈都は神海さんと週に一、二度は会っていると聞いていたから、余計に。

 奈都と神海さんの付き合いは良好で、成悟さん同様忙しい神海さんは三回目のデートで合鍵を渡し、奈都は三日後に渡された合鍵を使ったという。

 もちろん、そのままお泊り。
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