愛が全てじゃないけれど
 自分がそんな感じだから、当然奈都は三週間も会えずにいる成悟さんに苛立っている。


 仕事だから仕方ないんだけど……さ。


 成悟さんからは新規の仕事とトラブルが重なって、いつも以上に忙しくて身動きが取れないと聞いている。

 仕方がないと納得している。

 仕事より女を優先する男はどうかとも思っている。

 でも、期待だったり寂しさを感じることは、意思でどうこうできるわけじゃない。

 感じた期待や寂しさをやり過ごすことはできるけれど。

 慶太朗は時間の許す限り私と一緒にいたいと言った。

 だから、私から彼の予定を聞いて誘うことがなかった。

 そのせいだ。

 読めない相手の予定に、一喜一憂させられているのは。

 私は自分の予定を変更してまで、相手に合わせようと思わない。

 無理をしてはいつか疲れてしまうから。

 それは恋愛に限らず、社会経験を積めばわかること。


 わかってるのに、次にいつ会えるか知りたいとか……。

 私って私が思うより面倒臭い女なんじゃ……?


 気をつけよう。

 まだ始まるかわからない恋に振り回されていては、先が思いやられる。

 成悟さんのように責任ある立場で多忙な男性(ひと)に、我儘は言えないし、隣に立とうとするなら聞き分けよくなければならないだろう。

 私はふっと短く息を吐くと、顔を上げて大きく息を吸い、パソコンのメールチェックを始めた。

 急ぎの仕事は全て片付け、予定もキャンセルになり、今なら突発的な仕事に対応できるという時に限って、何もないのはよくあること。

 私は予定通り定時に退社した。

 エレベーターを待っている時、蜂谷さんと誰かが話している声が聞こえ、近づいてきたから、階段で下りた。

 意味も分からず抱きしめられた日から、私は今まで以上にやむを得ない場合を除いて彼を避けている。

 慶太朗もだ。

 今でも私を見ると何か言いたげな慶太朗だが、小花ちゃんとのその後はわからない。


 久しぶりにぶらぶらしようかな。


 会社を出て、通勤路線とは違う駅へと歩き出す。

 私の通勤路線は住宅街を通っているから、服や雑貨を見て歩ける場所は少ない。

 いつもと違う電車に乗って、ふっとその気になった駅で降りた。

 駅の近くを歩き、気の向くまま店に入り、目についた服を試着したり、何種類かのハンドクリームの匂いを嗅いでみたりした。

 二時間半後。

 私はスーツ一着と私服を三枚、ペアのマグカップを一組と、グリーンアップルの香りのハンドクリームを買って、紙袋をガサガサさしながら駅に向かっていた。


 久しぶりにまとめて買い物したわね。


 気分が良かった。

 予定外の出費ではあったけれど、どれも必要なもので、いい買い物だった。

 中でも、マグカップは目について思い出した。

 今私が使っているのは、慶太朗と付き合い始めてから、彼が家に来た時用に買ったものとペアだと。

 自分用も慶太朗用も捨ててしまおう。

 またペアで買ったのは、いつか成悟さんが私の部屋でコーヒーを飲むことがあるかもしれないと、少し期待してだった。


 少し疲れたな……。


 慣れた靴とはいえ、仕事帰りの足にはそれなりの負担。
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