好きでいっぱい

第13話 最後のページ

朝から雨が降っていた。
窓を叩く雨音は強くも弱くもなく、
ただ静かに、一定のリズムで世界を濡らしていた。

「……今日で、このノートも最後のページか」

レシピノートを開くと、
残りはあと一枚だけだった。

ふたりで書き続けてきた交換日記。
雨の日も、晴れの日も、
不安な日も、嬉しい日も、
全部このノートに積み重なっている。

胸の奥が静かに温かくなる。

◇

夕方。
カフェ・ルーチェの扉を開けると、
雨の匂いとコーヒーの香りが混ざり合って、
どこか懐かしい空気が広がっていた。

「いらっしゃい」

悠真さんが、雨の日特有の柔らかい笑顔で迎えてくれた。

「雨宮さん、今日……ノート持ってます?」

「はい」

「最後のページ、書きましょうか」

胸が跳ねた。

「……はい」

◇

窓際の席に座ると、
雨粒がガラスを伝ってゆっくり流れていく。

「雨宮さん」

「はい?」

「このノート、すごく大事なんです」

「……私もです」

「雨宮さんと過ごした時間が全部ここにあって……
読み返すと、どの日も大切で……」

言葉がゆっくり紡がれていく。

「最後のページは、ふたりで書きたいです」

胸がぎゅっとなる。

「……はい」

◇

閉店後。
雨は少し弱くなっていた。

軽ワゴンの中で、ふたり並んで座る。
雨音が静かに響いていた。

「じゃあ……書きましょうか」

悠真さんがノートを開く。
最後のページが、静かにふたりを待っていた。

「先に書いてもいいですか?」

「……はい」

悠真さんはペンを取り、
ゆっくりと言葉を綴った。



◆レシピノート(交換日記)
最後のページ

桐生悠真
『雨の日も、晴れの日も、
不安な日も、嬉しい日も、
全部、雨宮さんと一緒に過ごせてよかったです。
このノートが終わっても、
ふたりの時間は続いていきます。
ゆっくりでいいので、
これからも隣にいてください。』

悠真さんはペンを置き、
静かにノートを私へ差し出した。

「雨宮さんの言葉も、ここに」

胸が熱くなる。

私はペンを持ち、
ゆっくりと言葉を綴った。

雨宮陽菜*
『このノートに書いた日々は、
全部、桐生さんと過ごした大切な時間です。
不安な日もあったけれど、
桐生さんの言葉で、少しずつ前に進めました。
このノートが終わっても、
ふたりの時間が続いていくことが嬉しいです。
ゆっくり、隣を歩きたいです。』



最後のページが埋まった。

ふたりの言葉が並んで、
静かに一冊が終わった。

◇

隣同士の部屋の前で立ち止まる。

「雨宮さん」

「はい?」

「このノート……次の一冊も、一緒に書きませんか?」

胸が跳ねる。

「……はい」

「ゆっくりでいいので」

「ゆっくり書きます」

悠真さんは静かに笑った。

「じゃあ……また明日」

「……はい」

雨の夜は、今日も静かに恋を進めてくれた。


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