好きでいっぱい

第7話  初めてのデート

休日の朝。
窓から差し込む光は柔らかく、空は雲ひとつない青だった。

「……晴れてる」

思わず小さく笑う。
雨女の私にしては珍しい、完璧な晴れの日。

今日は、初めてのデートだった。

“どこか行きませんか?”
昨日、帰り道で悠真さんがそう言ってくれた。

その言葉を思い出すだけで、胸が静かに高鳴る。

◇

服を選びながら、私は鏡の前で少しだけ悩んだ。

恋人としての初めてのデート。
何を着ればいいのか分からない。

「……これでいいかな」

淡い色のブラウス。
いつもより少しだけ明るい色。

深呼吸して、玄関を出る。

◇

待ち合わせは、カフェ・ルーチェの前だった。

店の前に着くと、悠真さんがすでに待っていた。
白いシャツに薄いグレーのカーディガン。
いつもより少しだけラフな雰囲気。

「雨宮さん」

笑顔で手を振ってくれる。
その笑顔を見るだけで、胸が温かくなる。

「お待たせしました」

「いえ。早く来たのは僕なので」

少し照れたように笑う。
その仕草が、昨日よりずっと恋人らしく見えた。

「じゃあ、行きましょうか」

「はい」

◇

向かったのは、駅前の小さな雑貨店だった。
ガラス越しに見える店内は、淡い色の雑貨が並んでいて、
どこか絵本の世界みたいだった。

「ここ、好きなんです」

悠真さんが言う。

「意外です」

「よく言われます」

二人で笑う。

店内を歩くと、可愛いマグカップや小さな置き時計が並んでいた。

「これ、雨宮さんに似合いそう」

淡い黄色のマグカップを手に取って、悠真さんが言う。

「え……」

「優しい色なので」

胸が少し跳ねる。

「……可愛いですね」

「ですよね」

二人で同じものを見て、同じように笑う。
それだけで、恋人になった実感がまた少し強くなる。

◇

雑貨店を出ると、風が少し冷たかった。
空は晴れているのに、遠くで雲がゆっくり流れている。

「雨、降るかもしれませんね」

悠真さんが空を見上げる。

「……私のせいかも」

冗談めかして言うと、悠真さんは笑った。

「降ったら降ったで、また相合傘できますね」

その言葉に、胸がじんわりと温かくなる。

◇

次に向かったのは、小さな公園だった。
木々の間を抜ける風が心地よくて、
ベンチに座ると、少しだけゆっくりした時間が流れた。

「雨宮さん」

「はい?」

「今日、来てくれて嬉しいです」

「……私も嬉しいです」

言葉にすると、胸が少し熱くなる。

「恋人としてのデート、どうですか?」

「……まだ慣れないですけど」

「うん」

「でも、桐生さんとなら……」

言いかけて、少し照れる。

「ゆっくり慣れていけそうです」

悠真さんは、静かに笑った。

「僕もです」

その笑顔が、風より優しく感じた。

◇

帰り道。
空は少し曇ってきていた。

ぽつり。

肩に小さな雨粒が落ちる。

「……降ってきましたね」

「ですね」

悠真さんが傘を広げる。
自然な仕草で、私の肩にそっと寄せてくれる。

昨日より近い距離。
雨音が静かに響く。

「雨宮さん」

「はい?」

「またデートしましょうね」

「……はい」

胸がまた静かに満たされる。

雨の帰り道は、今日も優しかった。

◇

部屋に戻ると、レシピノートを開いた。

新しいページに、そっと書く。

『初めてのデートは、雨が少し降ったけれど
それでも全部、幸せでした。』

ページがまた一つ増える。
二人の時間が、また一つ増える。

雨の日も晴れの日も、
恋人になった世界は、静かに優しく広がっていく。

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