あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
歩き出して少しして、コートの袖と袖が、触れた。
布の擦れる、小さな音。
どちらも何も言わないが、互いの歩幅だけが、少しずつ揃っていく。
三歩目で、大きな手が、このみの手を包んだ。
会議室で、一度だけ包まれた手だ。
……外で、歩きながらは、初めてだった。
駅までの道の途中で、篠宮のスマホが短く震えた。
画面を見た篠宮が、少しだけ歩調を緩める。
「……来週、会ってほしい人がいます」
「どなたですか」
「まだ秘密です。──ただ、悪い話ではないです」
二回目の、秘密、だった。
悪い話ではない、と言うなら、黙って会ってみようと思った。
「分かりました。……あ、でも、一個だけ条件です」
「何ですか」
「その日も、両手の空くお店にしてください」
篠宮は二秒考えて、「善処します」と言った。
しない、とは、今回も言わなかった。
通りの先に、駅の明かりが見えてきた。
そこから、どちらの歩幅も、少しずつ狭くなった。
たぶん、どちらも気づいていた。
駅前の電光掲示板が、二十二時二分、と出している。
「調べた電車です。間に合います」
篠宮はそう言った。
言いながら、繋いだ手は、離さなかった。
言葉と手が、別のことを言っている。
このみは、掲示板を見た。
それから、繋がれた手を見て、最後に、篠宮の顔を見た。
息を、ひとつ。