あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
最終章 規定ですので
規定ですので
次の日曜の昼、連れて行かれたのは、駅から少し歩いた通りの、小さな定食屋だった。
「両手の空く店です」
篠宮は約束の確認みたいに言って、引き戸を開けた。
奥の座卓に、先客が一人いた。
こちらに気づいて、湯呑みを置いて、軽く手を挙げる。
「や。久しぶり」
顔より先に、声で分かった。
(──八重樫さん、だ)
四年ぶりの先輩は、髪が少し短くなっていて、それ以外は何も変わっていなかった。
うまく状況が飲み込めなくて、このみは店の入口で立ったままになった。
「そんな顔しないでよ。幽霊じゃないんだから」
「……や、八重樫さん、あの、私」
「はい、まず座る。話はそれから。ここの焼き魚、おいしいらしいよ」
促されるまま、座卓に着いた。
篠宮が隣に座る。
テーブルの下で、篠宮が少しだけ私の手を握り、離した。
大丈夫です、の合図に思えた。
注文が済むと、八重樫は湯呑みを両手で包んで、世間話の続きみたいに言った。
「あの花束ね、ドライフラワーにして、しばらく玄関に飾ってたよ」
息が、止まった。
ドライフラワー。
玄関。
しばらく。
言葉が、ひとつずつ遅れて意味になる。
捨てられて、いなかった。
あの花束は、恨みと一緒に捨てられたとばかり、思っていたのに。
箸を持ったままの手が、下ろせなくなった。
「……覚えてたんですか」