あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
「覚えてるよ。花束の係、倉橋だったじゃん。渡すとき、手が震えてたから、ああ落とすなこれって思って見てた。落とさなかったけど」
八重樫先輩が退社してから、何度も謝りたいと思っていた。
あの日何も言えなかったこと。
項目を守れなかったこと。
黙って係だけやったこと。
どれから言えばいいのか分からないまま口を開きかけたら、八重樫が先に手のひらをこちらへ向けた。
「謝るの禁止。先に言っとく」
「でも」
「あのね、倉橋。私、篠宮さんから聞いたよ。あの項目、あんたが書いたんだって。役員に削られて、一回食い下がったんだって」
八重樫は湯呑みを置いた。
「私はさ、それでじゅうぶんだったの。ほんとに。会社で一回食い下がるのがどれだけ大変か、九年いたから知ってる。言っとくけど、恨んでもいないからね。一回も。……なのに当の本人が四年も落ち込んでたって聞いて、そっちのほうがショックだよ」
「でも、私は先輩に、何も返せて」
「返してもらったよ。あんた、私の同行のあと、毎回メモ取ってたでしょ。喫茶店で、変な速記みたいな字で。あれ、横から見てて、けっこう嬉しかったんだよね。教えたことが、どこかに残るんだって」
覚えられていたのは、こちらのほうだった。
四年間、覚えられている側だとは、考えたこともなかった。
「……でも、私、結局、消して」