あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
一生、という言葉を、この人は数字みたいに正確に使った。
その一生という言葉が、胸の真ん中に、まっすぐ入ってきた。
「返事は」
「今、要りますか」
「要ります。今は、と言って一度延ばされているので」
仕返しみたいな言い方に、少しだけ笑ってしまった。
笑ったら、言えた。
息を、ひとつ。
名字の形に開きかけた口を、いったん閉じて、開き直す。
「はい。……お願いします、湊さん」
練習の成果は、いちばんいいところで出た。
篠宮の目が、見開かれた。
それから、耳掛けの髪に手が伸びて、途中で止まって、行き場をなくした。
よく見ると、耳が赤い。
(この人の耳、赤くなるんだ)
「……不意打ちは、よくないです」
「不意打ちじゃないです。練習しました」
「なおさらよくない」
篠宮は視線を泳がせたまま、このみの手を取った。
信号がもう一度青になって、今度は二人で渡った。
週明けの月曜から、新制度の社内説明が始まった。
窓口のカウンターに、朝から人が並んだ。
並んだ、といっても、あの頃の並び方とは違う。
手にあるものが、不安から質問に変わっていた。
朝一番に来たのは、検査課の主任だった。
カウンターの前に立って、少しのあいだ、言葉を探していた。
「……戸倉さんに、行って聞いてこいと言われた。新しい評価の、資格手当の欄。うちの課には、書き味検査の社内検定を持ってるのが何人もいる。ああいうのは、どう関わるのか」