あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています

(え……っ)

と思ったときには、もう隣に顔があった。
長机の同じ側。
椅子ひとつぶんも空いていない距離で、息遣いを感じる。

「三等級と四等級の境目。ここの運用は」

声が、思ったより近くで落ちた。
マイクを通さない、生の声だった。
低くて、少し湿度がある。

(耳の横で聞くと、こんな声してるんだ……)

「──に、二次評価で調整会議が入ります。部門間のばらつきを、そこで調整します」

「調整会議の議事録は」

「残っています。請求リストに追加します」

机に置かれた篠宮の白く大きな手を見ながら、声が上ずらないように、わざと抑えたような声で言った。
そして、篠宮は私のマウスを奪い、自分でパソコンを操作する。
骨ばった白い手が、滑らかに画面上のカーソルを動かす。

(近い……。この人、距離の取り方おかしくない?)

別になんとも思ってなくても、つい慌ててしまうくらいの距離感だ。

椅子を半分引いて、距離を空けることもできた。
……もちろん、そんなことはしなかった。
パソコンから、目を離せなかったし。
仕事だし。

心臓の音が、隣に聞こえていないだろうか。
いや、何を考えているんだ、私は。
これは打ち合わせで、相手は明日からこの会社を切り刻むかもしれない人で──。

「倉橋さん」

「はいっ」

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