あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
第三章 宛先
質問の宛先
篠宮に資料を渡すようになって、四日が経った。
人事部の空気は、日ごとに重くなっていた。
みんな、このみが集めている資料の中身を、なんとなく察しているのだろう。
等級別の人員分布。
賃金テーブル。
時間外の推移。
──並べれば、リストラの材料にしか見えない。
ただ、誰も何も言わない。
このみがコピー機を使っていると、周りの席の会話が少しだけ小さくなった。
コピー機が吐き出す、温かい紙とインクの匂い。
このみはコピー機の音に隠れるように、大きなため息をついた。
昼休み、千夏から電話が来た。
メッセージではなく電話ということは、急ぎか、よほど喋りたいかのどちらかだ。
「ねえ、製造がやばいって聞いた?」
後者だった。
いや、半分は前者かもしれない。
「やばいって、何が」
「リストの噂。製造二課が先に切られるって話が回ってるらしくて、現場がピリピリしてるって。うちの子が備品届けに行ったら、空気が凍ってたって言ってた」
「……そんなリスト、存在しないよ」
「やっぱりそうなんだ。でも噂って、何もないところから出てくるからね」
千夏は妙に真理っぽいことを言って、午後の会議があると言って切った。
たぶん千夏としては、私のことを気にかけてくれて、教えてくれたのだろう。
そんな噂を信じる人が、一人でも少なければいいな、と願った。
昼休みが終わってすぐ、人事部の入口で、大きな声がした。