あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
第四章 効率です
傘の半分
外はあいにくの雨だった。
十五年前の労使協議の議事録は、別棟の書庫にある。
別棟への渡り廊下はなく、どうしても一度外に出て歩かないといけない。
このみが出社したときは雨が降っておらず、手元には傘がなかった。
(濡れたくないけど……行くしかないか……)
誰かに傘を借りる手もあった。
でも、今の私に話しかけられたら、相手も困るだろう。
そう思うと、借りには行けなかった。
そして、一歩踏み出そうとしたとき、頭上から声が降ってきた。
「書庫ですか」
篠宮だった。
腕に、畳んだ黒い傘を持っている。
「あ、はい。例の議事録を」
「私も行きます。現物を見たいので」
それだけ言って、先に歩き出す。
ついていくと、玄関で傘が開かれた。
そして当然のように、半分がこのみの側に傾いている。
「……あの、私、走れば」
「クライアント企業の社員を濡らすわけにはいきません。それに、あなたが風邪をひくと、仕事の進捗にも支障が出ます」
(……また、効率の話か)
「効率です」
心を読まれた。
いや、たぶん顔に出ていた。
雨音の下、傘の中は思ったより狭い。
肩が触れない距離を保っているのは、たぶん彼の腕が長いからだ。
革靴が水溜まりを避けて歩幅を刻む。
このみは半歩遅れて、その歩幅に合わせた。