あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています

この案は違った。
数字にならない仕事を、等級の要件として書き切ろうとしていた。
同行育成の時間。
引き継ぎの質。
後輩のクレーム対応への同席。
評価者が拾えるように、行動の例まで書いてある。

理屈で作った項目ではない。
誰かに世話になった人間が、その恩を、制度の言葉に翻訳したのだ。

湊は鞄から、一冊の綴りを取り出した。
五年前、あの人事部長から譲り受けた改定案だ。

山吹色の付箋を貼った、育成項目のページを開く。
何度も開いたせいで、綴りはもうボロボロだ。

(人を数字だけで見ない担当者が、この国のどこかにいる)

そう思うと、深夜の議事録も、そう悪いものではなかった。
この会社の買収案件が来たとき、真っ先にしたことは、現行の評価制度を確認することだ。
だが、何度も確認した育成貢献の項目は、現行の評価制度にはなかった。

改定履歴を辿ると、導入直前の版まではあったはずなのに、最終決裁の段階で消えていた。
そして、変更履歴欄には実務担当者の名前が記載されていた。

設計実務の担当者は、倉橋このみ。
当時、人事企画に異動して二年目。

(やっと、出会えた)

五年間、ずっと会いたいと思っていた人だった。
名前が載っているだけで、中身は別人が考えた──その可能性も、あるにはあった。

疑いが消えたのは、初日の説明会だ。
受付名簿が、社員番号順ではなく、講堂までの動線順に組まれていた。

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