あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
お約束にしないでください
缶コーヒーは、まだ手の中で温かかった。
このみのいる会社では、いつも事実より噂話が先に広がる。
三百人切った、とか、女を出した、とか。
推測を口にしないと決めている人の隣にいると、噂だけで回っていく自分の会社が、少し恥ずかしくなった。
篠宮は、缶の残りを飲み干して、机に置いた。
よく見ると、目の下に薄い隈がある。
この人も、ちゃんと疲れるんだ、と思う。
当たり前のことなのに、なぜか少し、意外だった。
「篠宮さんって、ごはん、ちゃんと食べてます?」
「……なぜ、それを」
「なんとなく。缶コーヒーで晩ごはん、済ませてそうだなって」
「済ませていません。ちゃんと、コンビニのおにぎりも食べます」
あんまり真顔で言うので、冗談なのか本気なのか分からなかった。
ただ、なんだか、少しおかしくなって、肩の力が少し抜けた。
それで、勢いのまま、思いきって聞いた。
「あの、篠宮さん。廊下の先の、あの部屋のことなんですけど」
篠宮の体が、一瞬、固まった。
……気のせいかもしれないけど。
「検査課の主任さんの荷物が、置いたままで。あの人、面談のあと、どこの部署にも顔を出してないって、千夏……総務の子が、言ってて」
言葉が、だんだん小さくなる。
聞くべきではないことを聞いてしまったのではないかと後悔する。
ただ、あの部屋の非常灯の、緑の色が、ずっと目の裏に残っているのだ。
篠宮は、しばらく黙っていた。
それから、いつもの平らな声で言った。
「あの部屋は、今、私が見ています」