あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています

振られた夜と、二センチ


店の喧騒が、一段遠くなった。

目の前の後輩の顔が、見たことのない真剣な顔になっていく。
ジョッキの結露が、コースターに小さな輪を作っている。
ああ、これは、そういう話だ。
分かった瞬間、心臓がひとつ、強く打った。

なのに。
頭に浮かんだのは、目の前の顔じゃなかった。

消灯したフロアの、缶コーヒーの温度。
傘の中の、肩が触れない距離。
渡り廊下で、確かめるみたいに呼ばれたフルネーム。

なんで、今。
なんで、この場面で、あの人が出てくるの。

答えを探して黙ったこのみの顔を、岡本くんはじっと見ていた。
それから、ふ、と息を吐いて、背もたれに体を預けた。

「……あー。なるほど、そういうことか」

「え」

「倉橋さん、今、俺のこと考えてないでしょ?」

「……っ」

「篠宮さんのこと考えてたでしょ?」

「──っ、ち、違……」

違う、が、最後まで言えなかった。
違うなら、すぐ言えたはずだった。
缶コーヒーのことなんて、浮かばなかったはずだった。

岡本くんは、怒った顔をしなかった。
ただ、参ったなあ、というふうに首の後ろをかいた。

「いや、薄々そうかなとは思ってたんすよ。社食のときの倉橋さん、あの人のこと目で追ってたし。……はー、そっかそっか。俺、告白する前に振られたの初めてっす」

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