あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
「倉橋このみさん」
確かにそう言った。
立ち止まったのは、このみだけだった。
振り返ったときには、男はもう三歩先を歩いていた。
呼び止めた、というのとは違う。
なんというか──確かめた、みたいな言い方だった。
自宅に帰り着いたのは二十一時過ぎ。
終日の電話で事務対応が遅れ、自炊する暇もなく、買ってきたコンビニのお惣菜を電子レンジに入れる。
そして、そのままジャケットをハンガーにかけた。
スマホを見ると、画面が光っており、千夏からのメッセージが表示されている。
『おつかれ! 総務部で篠宮さんの話しかしてない(笑)』
『こっちは各部署からかかってくる電話対応しかしてないよ』
『早く寝な笑』
スマホを置き、名札を外し、机に置く。
そこには、人事部、倉橋と書かれていた。
このみは温めたお惣菜を口に運びながら考える。
『倉橋このみさん』
篠宮と呼ばれた男の声。
思い返すとかすかに期待するような声色がある気もした。
(でも、なんで私の名前を知っていたんだろう)
名札にも、受付名簿にも、名字しか書いていなかったはずだ。
もちろん、人事コンサルタントとしての立場的に、いろいろな情報にアクセスできるのかもしれない。
ただ、さすがに私のような平社員の名前を覚えているとは思えなかった。
「とにかく疲れた」
考えるのも面倒くさくなって、食事もそこそこに眠気が襲ってきた。