あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
このみは名簿を抱え直した。
何か言わなきゃと思うのに、口の中に言葉が一つもない。
頬どころか、耳まで熱い。
篠宮は短く息を吐いて、姿勢を戻した。
仕事の顔に戻る──かと思ったら、戻り切らなかった。
「訂正はしません。悪手だと言ったことも、今のも」
まっすぐに、このみを見る。
「あなたがどんなに私の想定外のことをしても、関係ありません。──あなたを手放す予定は、私の計画にありません」
篠宮は、仕事中には見せない顔をしていた。
「……返事は、要りません。今は」
篠宮は歩き出した。
三歩先で、思い出したように振り返る。
「駅まで送ります。この時間の夜道は、」
少し、間があった。
「──危ない、ですし。……それとは関係なく、今日はもう少し一緒にいたいので」
変な言い訳をする篠宮の顔は、廊下の暗がりで、少しだけ無防備に見えた。
歩き出した彼の背中を、二歩ぶん遅れて追いかける。
渡り廊下の窓の外はもう真っ暗で、ガラスには、二人ぶんの影だけが映っていた。
一面オレンジだったあの日から、二か月。
同じ廊下が、まったく別の場所みたいだった。
部屋に帰り着いたのは、二十二時前だった。
駅までの十分間、何を話したのか、ほとんど覚えていない。
話さなかった気もする。
隣を歩く距離が、傘のときより、半歩だけ近かったことしか覚えていない。