あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
第九章 異動願
聞かせるための噂
説明会から三日で、このみ宛のメールは七十七件になっていた。
早期退職の割増率の数字。
再就職支援の対象範囲。
子会社出向者の扱い。
宛先は私です、と言った言葉は、ちゃんと届いていたようだ。
分からないものは調べて、期限を切って、一件ずつ返す。
篠宮に確認が要るものは一覧にして回す。
夜は遅くなったけど、嫌ではなかった。
「規定ですので」と返すより、ずっと仕事をしている感覚はある。
火曜には、品質保証部の年配の人から返信が来た。
最初の説明会で、震える声で長い質問をした、あの人だ。
『きちんと調べていただき、ありがとうございました。会社の状況が悪いことには変わりありませんが、しっかりと教えていただけるだけで不安がやわらぎました』
その一通を、このみは三回読んだ。
(……ちゃんと、役に立ってる)
それに──認めるのは少し癪だけど、月曜と火曜の会社は、景色が違って見えた。
篠宮からの確認メールは、文面も様式も、これまでと一言一句同じで。
なのに、廊下ですれ違うとき、彼の歩調が半歩ぶんだけ緩む。
目は合わせてこない。
なのに、すれ違ったあと、背中に気配を感じる。