あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
返事は要りません、今は。
あの夜の返事は、まだ待ってもらっている。
そのあいだは、同じ廊下も、同じ電話の音も、薄く色がついて見えた。
ただ、そう思えたのは、水曜の昼までだった。
水曜の昼、給湯室に入ると、会話が止まった。
経理の二人だった。
コピー機の前で聞こえよがしに喋っていた、あの二人だ。
今日は目も合わせずに、カップを持って出ていった。
すれ違いざま、半分だけ聞こえた。
いや、半分だけ、聞かせたのだろう。
「……ホテルまで一緒だったんでしょ、もう決まりだよね」
お湯を注ぐ手が、止まった。
昼休みの終わりに、千夏から電話が来た。
ふだんならメッセージなのに、それを飛ばしていきなり電話だ。
「このみ、今どこ。一人?」
「階段。どうしたの」
「……あのね、怒らないで聞いて。てか怒っていいんだけど。変な噂が回ってる」
千夏の声は、いつもの倍の速さだった。
「出張で二人でホテルに泊まったって話に、尾ひれがついてる。部屋がどうとか、そういう尾ひれ。それから、このみが営業の岡本くんを思わせぶりに引っ張っといて、コンサルに乗り換えたって話。あと……データを渡す代わりに、自分だけリストから外してもらう約束をしてるって」