あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています

君も、いずれこうなるよ


夕方、課長に呼ばれた。
場所は会議室でもなんでもない、廊下の突き当たりだった。

「……噂の件、部長の耳にも入ってる」

課長は、窓の外を見ながら言った。

「俺はお前の仕事ぶりを知ってるから、何も言わん。部長も、たぶん分かってる。ただな、ああいうのは、事実かどうかじゃなくて、どれだけの人に知られているかなんだよ……すまんが、今は何もできん。たぶん、何をしてもすべて裏目に出る」

「いえ。……ありがとうございます」

すべて裏目に出る。
その言い方は、怖いくらい正確だった。
頷くしかなかった。

廊下の窓の冷たさだけが、背中に残った。

その日は、二十時過ぎまで残って回答を返した。
お手洗いに立って戻ると、机の上に、缶コーヒーが一本、置かれていた。

微糖の、あの平凡な銘柄。
メモも、付箋も、何もない。

フロアを見回しても、それらしい背中は、もうどこにもなかった。
……お約束にしないでください、と言ったのは、私なのに。
両手で包むと、缶はまだ温かかった。

飲まずに、しばらく、そのままでいた。
こんな日に限って、優しくしないでほしかった。

木曜の朝、エレベーターホールで、開いた扉の中に篠宮がいた。
乗り合わせれば、また誰かが何かを言う。
考えるより先に、体が横の階段室へ逸れていた。

扉の閉まる音を、壁の陰で聞く。
……何やってるんだろう、私。
四階まで階段を上がると、踊り場の窓の前に、篠宮が立っていた。

先回り、されていた。

「倉橋さん」

「……おはよう、ございます」

「顔色が悪い。最近、食事は取れていますか」

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