あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
第二章 指名

名指しの指名


翌朝、会社ではこんな噂が流れていた。

「四階に席ができるらしいよ、例のコンサル」

「役員フロアじゃないんだ」

「現場に近いほうがいいんだって。……怖くない?」

始業前の給湯室で、そんな声が聞こえる。
緑のタイルの壁に、ひそめたつもりの声がよく響く。

このみは昨日の電話メモを手に取り、今日やるべきことを整理する。
早くこれらを処理していかないといけない。

始業から三十分ほどたってから、課長が受話器を置いて、このみを見た。

「倉橋、十時から第一会議室行ってくれ。ファンドとの顔合わせだ」

「私もですか」

「私も、じゃなくて、お前が呼ばれてるんだよ」

課長は変な顔をしていた。

(なんで私?)

その理由は、すぐに分かることになった。
第一会議室、長机の向こうにファンドの男二人と、篠宮がいた。

こちら側は藤堂常務、人事部長、課長、そして末席にこのみ。
手元のメモパッドはハルシマ製で、どうやら篠宮も同じものを使ってくれているようだった。

重い空気の中で、藤堂常務がしゃべる。

「いやあ、昨日の説明会は良かった。ああいう場はね、誠実さが伝わることがいちばんですから」

恰幅のいい体に、ぴたりと撫でつけられた七三の髪型。
笑うと皺が寄る目尻。
若手のあいだでは「話の分かる役員」で通っている人だ。

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