あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
湯呑みの中で、茶柱がゆっくり回っていた。
「その子がどうなったかは、まあ、言わないでおこう」
「……四階の、あの部屋の件は」
声が出たのは、自分でも意外だった。
藤堂は振り向いて、にこやかなまま少し首を傾げた。
「部屋?」
「検査課の主任が、仕事のない席に座らされています。あれは、誰の判断ですか」
「ああ、集中業務スペースね。あれはご本人の適性を考えた措置だと聞いてるよ。詳しくは知らんがねえ」
それから藤堂は、窓の外に目を戻して、世間話の続きみたいに言った。
「君も、いずれこうなるよ」
そこからしばらく言葉が続かず、空調の音が、大きく聞こえ始めたころ「──なんてね」と藤堂は笑った。
「あの子のようにならないように、今のうちに、あの窓口から離れなさい。異動願を出せば、私が口を利いてあげよう。子会社でも関連でも、君くらい優秀なら、いくらでも行き先はある。……彼が帰った後も、君の人生は続くんだから」
応接室を出るとき、背中に、柔らかい香水の匂いがついてきた気がした。
六階の廊下は、今日も電話が鳴っていなかった。
金曜の打ち合わせは、十五分で終わった。
説明会の回答集の進捗。
追加資料の一覧。
このみは要点だけを話し、篠宮の目を見ずに資料を揃えた。
「回答集は、規定の書式で金曜までに仕上げます」
「……書式は任せます」
少しの間があって、篠宮は資料を閉じた。
「噂の件は、把握しています」