あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
声は、いつも通りだった。
「発生源を特定します。時間はかかりますが、対処します。あなたは」
「仕事に、支障はありません」
言葉を、途中から奪ってしまった。
「……そうですか」
「はい。以上です。次の予定があるので」
ファイルを閉じる音が、会議室に響いた。
篠宮が、何かを言いかけて、やめたのが分かったが、顔を上げなかった。
代わりに、彼の手が資料の角を、意味もなく二度、揃え直したのが、視界の端に映った。
(目を見たら、たぶん、駄目になる)
あの渡り廊下の夜から、まだ一週間しか経っていない。
返事は要りません、今は──そう言った人の「今」を、こんな形で使い潰している。
でも、と思う。
私が隣にいる限り、あの人の数字は「女がらみ」で疑われる。
データも、基準も、再建ごと。
……あの部屋の主任に「違います」と言うためには、まず私が、疑いの材料であることをやめないと。
このみは、ぐっと唇を噛んだ。
夜、部屋の机で、このみは一枚の書式を開いた。
異動願。
人事部で管理している、あの書式だ。
何十人分も処理してきたから、目をつぶっても書き方が分かる。
書式の隅には、小さく自社のロゴが入っている。
所属。
氏名。
希望勤務地。
希望時期。
最後に、理由の欄。
ボールペンを持ったまま、長いこと止まっていた。
書くべきことは山ほどあった。
噂のこと。
部屋のこと。
藤堂のこと。
どれも、書式のこの小さな欄には、入らない。