あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
ペン先が止まったまま、営業時代の先輩の顔が、久しぶりに浮かんだ。
誰よりも後輩に時間を使って、誰よりも低い評価をつけられて、最後の日に、この制度なら仕方ないね、と笑った人。
あの日、このみは何も言わなかった。
送別の花束を渡す係をやっただけだった。
あのときの自分と、今の自分は、何が違うんだろう。
違う、と言いたかった。
今度のは逃げじゃなくて、守るためで──。
……理屈がどれだけ完璧でも、やっていることは、あの日と同じだ。
黙って、消える。
一身上の都合により。
そう書いた。
──また、制度の言葉に逃げた。
封筒に入れて、封をする。
糊が乾くまで、指で押さえていた。
そのあいだに、スマホが一度、短く光った。
社用のメールだった。
差出人、篠宮。
『月曜、十五分ください。議題:体制』
体制、の二文字を、何度も読んだ。
窓口を替えるのかもしれない。
向こうから、外されるのかもしれない。
だったらこの封筒は、ただの先回りになるだけだ。
(そうだよね、篠宮さんも、今の私と組むなんてやりにくいよね)
机の端には、飲めなかった缶コーヒーが、まだ置いてある。
持って帰ってきてしまった。
捨てられも、飲めもしないまま。
月曜に、課長に出そう。
それまでは、鞄の内ポケットに入れておく。
あの人が、あの紙をしまったのと、同じ場所に。